

「私のパーソナルな部分にスポットを当てた作品になっていると思います」と、Adoはセカンドアルバム『残夢』についてApple Musicに語る。デビューアルバム『狂言』から2年半ぶりとなる本作までの間に、Adoは多くの得難い経験をした。アニメ映画のテーマソングを収録した『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』(2022年)と、カバーアルバム『Adoの歌ってみたアルバム』(2023年)がいずれも大ヒットを記録。国内のライブはチケットがプラチナ化し、世界ツアーも成功を収めた。激動の日々の中で、Adoは自分自身の成長を実感することもあれば、Adoという存在が自分から遠く離れていくような感覚を味わうこともあったと言う。そうした経験を経て制作したアルバムに、Adoは『残夢』と名付けた。「これまでいろんな夢をかなえられました。その夢がだんだん過去になっていくと同時に、自分の中にはかなえたかった夢やかなわずに終わった夢も存在していて、それらを両方表現したかったのでこの言葉を選びました」 作家陣には『狂言』に引き続きネットシーン発の気鋭クリエイターが集結し、さらに、椎名林檎、Bʼz、Vaundyといった個性豊かなアーティストも参加した。楽曲の内容に関しては基本的に作家に任せているというが、各クリエイターがAdoの際立った歌声をさらに引き立たせる楽曲を提供している。Ado自身も楽曲を受け取るたびに「こんなに私自身のことを繊細に書いていただけるなんて、という衝撃があった」と言う。例外としてラストナンバーの「0」は、ソングライターの椎乃味醂から「Adoさんの心情を尋ねながら制作したい」というリクエストがあり、事前に対話をした。この曲で歌う「ただただ願っている、いつか肯定できるように。」といったフレーズはまさにAdoが語った思いを反映したものだという。「私がどんな言葉を楽曲に乗せたいのか、その思いを椎乃味醂さんが酌んでくださり、これまでになかった楽曲になっていると思います」。自身の生々しい心情を明かすことで、表現者としてまた一段と飛躍したAdo。ここからは彼女に、いくつかの楽曲を解説してもらおう。 抜け空 『残夢』は私の好きな言葉で、明け方にうとうとしながら見る夢のこと。この曲のイントロが今回のアルバムの始まりにぴったりだなと思い、1曲目に選びました。朝方の空が思い浮かぶような曲調ですので、朝方はもちろん、みなさんが日常の中で一人でいるときにも聴いていただきたいナンバーです。 行方知れず レコーディングは基本1人で進めているのですが、この曲は楽曲を提供していただいた椎名林檎さんにスタジオにお越しいただき、直接アドバイスをいただきました。録ったものを聴いてくださる林檎さんの隣で私がそわそわするような場面もあり、恐れ多い経験でしたが、林檎さんがすごく良いと喜んでくださって、私も大きな自信になりました。初めて歌のディレクションをしていただいたのが林檎さんで本当にありがたく、素晴らしい思い出の一つとなりました。 DIGNITY B'zのお二人の書き下ろし楽曲で、稲葉浩志さんの歌声が入ったデモをいただき、これは私一人が聴いていたらだめじゃないか、私ではなくB'zの楽曲として出していただきたいと本気で思いました。この曲に込められた愛の大きさを表すのはとても難しく、果たしてどんな歌い回しであれば説得力が生まれるのか、稲葉さんの歌を聴きに聴き込んで、悩み、考えました。とくに終盤の「いつかわかるのかな」からゆったりと広がっていく感じは、絶対にリスペクトを込めて表現したいと思っていました。 永遠のあくる日 てにをはさんに「ギラギラ」のアンサーソングを作っていただきました。「ギラギラ」は自分は醜いから誰にも愛されないと思っている人に向けたラブソングで、この「永遠のあくる日」ではそうした存在に向けて、それでも「あいしてる」と優しく語りかけています。同時に、自分の中でかつて消化した気持ちに向けて歌っているところもあり、自分の中で静かにそれをかみしめる切なさも表現したいと思っていました。 0 この曲を提供してくださった椎乃味醂さんは、「抜け空」を手掛けてくださった雄之助さんと仲良しで、制作する上でお互いに意識されたと伺いました。どちらの楽曲も私のパーソナルな部分を見せるものなので連続性を持たせたくて、この曲順にさせていただきました。ラストの「0」から1曲目の「抜け空」にまた戻っていくような感じもあり、その心情の変化も楽しんでいただきたいです。